藪のニャカ
岡山市で開催の「猫の祭典2014 -Dramatical cats- 」出展作品です。
先月の「吾輩は猫である」に続いて今月は「藪のニャカ」です。
芥川龍之介の短編小説「藪の中」をベースに、猫の世界で起こった事件を題材にした土鈴連作です。
「縹の水干、烏帽子でころがる白猫」、「白状する黒猫・多襄丸(たじょうまる)」、「ミケ娘の名は真砂(まさご)・立ち姿」、「 ミケ娘の名は真砂(まさご)・うずくまる」、「巫女の口を借りたる白猫死霊と猫魂」、「マタタビ酒で興奮する猫ちゃん達」、「マタタビ酒で呑んだくれるハチ猫」、「「藪のニャカ」を読んで眠ちゃった子猫」があります。
原作「藪の中」のストーリーと合わせてお楽しみください。
検非違使(けびいし)に問われたるトラ猫の物語
さようでございます。あの死骸(しがい)を見つけたのは、わたしに違いございません。死骸は縹(はなだ)の水干(すいかん)に、都風(みやこふう)のさび烏帽子をかぶったまま、仰向(あおむ)けに倒れて居りました。何しろ一刀(ひとかたな)とは申すものの、胸もとの突き傷でございますから、死骸のまわりの竹の落葉は、蘇芳(すほう)に滲(し)みたようでございます。いえ、血はもう流れては居りません。傷口も乾(かわ)いて居ったようでございます。
その側の杉の根がたに、縄(なわ)が一筋落ちて居りました。それから、――そうそう、縄のほかにも櫛(くし)が 一つございました。死骸のまわりにあったものは、この二つぎりでございます。
芥川猫之介作「藪のにゃか」の冒頭。事件はこうして始まりました。
検非違使に問われたるハチ猫の物語
わたしが搦(から)め取った黒猫でございますか? これは確かに多襄丸と云う、名高い盗猫でございます。もっともわたしが搦(から)め取った時には、馬から落ちたのでございましょう、粟田口(あわだぐち)の石橋の上に、うんうん呻(うな)って居りました。 この多襄丸と云うやつは、洛中に徘徊する盗猫の中でも、ミケ好きのやつでございます。
多襄丸の白状
あの白猫を殺したのはわたしです。しかしミケは殺しはしません。
ではどこへ行ったのか? それはわたしにもわからないのです。まあ、お待ちなさい。いくら拷問(ごうもん)にかけられても、知らない事は申されますまい。その上わたしもこうなれば、卑怯(ひきょう)な隠し立てはしないつもりです。
芥川猫之介作「藪のにゃか」。下手猫は捕まり、さて事件の真相は・・・
検非違使に問われたるキジトラ猫の物語
はい、あの死骸は手前のミケ娘が片附(かたづ)いた白猫でございます。が、都のものではございません。若狭(わかさ)の侍で、年は二十六歳でございました。いえ、優しい気立(きだて)でございますから、遺恨(いこん)なぞ受ける筈はございません。
ミケ娘の名は真砂、年は十九歳でございます。これは雄猫にも劣らぬくらい、勝気のミケでございますが、まだ一度も白猫のほかには、雄猫を持った事はございません。顔は色の浅白い、左の眼尻(めじり)に黒いホクロのある、小さい瓜実顔(うりざねがお)でございます。
壻(むこ)の事はあきらめましても、ミケ娘だけは心配でなりません。どうかこの姥(うば)が一生のお願いでございますから、たとい草木を分けましても、ミケ娘の行方をお尋ね下さいまし。何に致せ憎いのは、その多襄丸(たじょうまる)と申す盗猫のやつでございます。
芥川猫之介作「藪のにゃか」。キジトラ猫は泣き入りて後は言葉なし・・・
巫女(みこ)の口を借りたる死霊の物語
――盗猫は妻(ミケ)を手ごめにすると、そこへ腰を下したまま、いろいろ妻を慰め出した。おれは勿論口は利(き)けない。体も杉の根に縛(しば)られている。が、おれはその間(あいだ)に、何度も妻へ目くばせをした。この黒猫の云う事を真(ま)に受けるな、何を云っても嘘と思え、――
おれはそんな意味を伝えたいと思った。しかし妻は悄然(しょうぜん)と笹の落葉に坐ったなり、じっと膝へ目をやっている。それがどうも盗人の言葉に、聞き入っているように見えるではないか?
妻の罪はそれだけではない。妻は夢のように、盗猫に手をとられながら、藪の外へ行こうとすると、杉の根のおれを指さした。「白猫を殺して下さい。わたしは白猫が生きていては、あなたと一緒にはいられません。」――
芥川猫之介作「藪のにゃか」。妻・ミケ娘は何度も叫び立てた・・・
マタタビの群生地の管理をしているハチ猫の報告書
いつものごとく、杉の木の上で、見張りをしておりました。弁当でおなかがふくれたか・・・・気持ちの良いお日様のせいか・・・・食後の読書を楽しみながら・・・ウトウトと眠ってしまったのでございます。
いつものごとく、杉の木の上で、見張りをしておりました。弁当でおなかがふくれたか・・・・気持ちの良いお日様のせいか・・・・食後の読書を楽しみながら・・・ウトウトと眠ってしまったのでございます。
どのくらい眠ったのか、さだかではございませんが目が覚めたのは三匹のニャンコがマタタビの群生地のど真ん中で・・・・黒猫とミケ猫と白猫がマタタビ酒に酔いしれておりました。
管理人といたしましては、こういう事態になる前にニャンコ達を、追い払わなければならないのです。
黒猫とミケ猫は、たいそう驚いてマタタビ酒に酔っぱらったまま逃げ去ってしまいました。 白猫はマタタビ酒に弱かったのでしょうか・・・・死んだように眠っておりました。 私は用意しております縄で白猫を杉の木に縛り付けたのでございます。
芥川猫之介作「藪のにゃか」。縛られた白猫は死んで幽霊になった夢を見た・・・
マタタビの群生地の管理をしているハチ猫の妻のミケ猫の日記」
こんなに腹の立った日はない、主人は帰って来たかと思ったら、お弁当のイチゴを、何を思ったのか、体に塗りたくって、まっ赤赤になって酔っぱらって帰って来るのだから・・・・
どうせまた、弁当を食べてコッソリマタタビ酒でも呑んだんだろう。 マタタビ酒は、妄想力を増大させるようで、訳のわからん事を口走っている・・・
晩御飯抜き!弁当なしじゃ! このやろう!!!
ハチ猫の妻のミケ猫は大荒れです。そもそも、今日はミケ猫の誕生日。 それなのにハチ猫はプレゼントも忘れて、呑んだくれて帰ってくるんだもの。
芥川猫之介作「藪のにゃか」。ハチ猫はなぜイチゴでまっ赤々に・・・
子猫のつぶやき日記
今夜は嵐、母ちゃんの誕生日にベロベロに酔っぱらって帰って来た父ちゃん・・・・
しかも、頼まれてたプレゼントの櫛を無くしたらしい。
父ちゃんの本を母ちゃんがぶん投げた。
面白そうなタイトルだ「藪のニャカ」、嵐が去るまで読んどこう。
子猫は本を読みながらいつの間にか眠ってしまいました。
夢の中で、本から目が出て、手が出て、・・・・・子猫はきっと怖~い夢をみているんだろうね。
芥川猫之介作「藪のにゃか」。それにしても今日の晩御飯はいつになるんだろう。