落語土鈴を色々ご紹介しています。年末になると来年の干支に関連する落語土鈴を作ってきました。

ちなみに今年はといえば、午年でしたので落語ネタは「馬の田楽」、 昨年は巳年でしたので「蛇含草」でした。

他にも「牛ほめ(丑)「池田の猪買い(亥)」等、 干支の動物を扱った落語土鈴を紹介しています。

ところが来年の干支「未」に関連してヒツジが登場する落語が見当たりません。そこで作ってみました。

演者は噺家土鈴の羊福亭まとん師匠です。

羊福亭まとん

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奈良の町中を歩いておりますと、軒先にお猿さんのぬいぐるみがぶら下げられているのをよく見かけます。あるお宅で鹿のぬいぐるみをぶら下げているのを見たことがございますが、いくら奈良と言っても鹿はまずいようで、お猿さんのぬいぐるみに限られるようです。 しかも、そのお猿さんは手足をくくられてさかさまにぶら下げられています。 考えてみれば残酷な姿ですねぇ。 なんでこうなるかと聞けば、お猿さんは庚申(こうしん)さんという神様のお使いなのです。お猿さんは人間に近い動物といわれていますが、所詮は動物、欲のままに行動します。動物園に行けば、お猿さんは欲のまま走り回っているように見えますよね。この「欲望」が動かないように、庚申さんによってくくりつけられているのだそうです。 このお猿さんに喩えて人間もその中にある欲望をそのままに動かさないように庚申さんによってくくりつけられているということでしょうね。 人間の体には三尸(さ んし)の虫という虫が住んでいて、いつもその人の悪事を監視しているそうです。三尸の虫は2か月に1回まわってくる庚申の日の夜に人が寝ている間に 天に登って閻魔様にその人の日頃の行いを報告し、その罪状によっては寿命が縮んだり、死んだ後に地獄・餓鬼・畜生の三悪道に堕とされると言われていました。 「そんなことにならないように悪いことはしないでおこう」って考える人はまぁいません、「三尸の虫が天に登れないようにすれば良いだろう」と考える人ばかり。 要するにその日の夜に寝るから三尸の虫が天に登るので、寝なきゃ良いということですね。それで、この夜は町内の人達が集まって神様を祀り、その後、皆で寝ずに酒盛りなどをして夜を明かしました。

そんな奈良町で起こったある夜の出来事がこのお話です。

庚申堂 身代わり猿

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(ご隠居)「また、庚申さんの日になりましたなぁ。」

(源兵衛)「毎回、いろいろ寝ない工夫をしているけど、なかなかこれが良いというのはありませんなぁ。」

( 清八 )「今日も、酒肴は持ち寄ったのでこれはこれで楽しく過ごせるまぁ、酒はやっぱり春鹿や。たまらんなぁ。けど、食べて飲むだけなら、眠くなる。」

(源兵衛)「海老の鬼殻焼き、玉子の巻焼き、烏賊の鹿の子焼き… うまそうやなぁ。 こっちは、奈良漬けに、豆さんの炊いたん。それに蜜柑に煎餅か。あれっ、この煎餅はおかしないか?誰が持ってきたん?」

( 喜六 )「わしや。今日奈良公園を通ったら、ようけ売ってはった。」

(源兵衛)「やっぱり鹿煎餅やないか。」

I Love 鹿煎

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( 喜六 )「おいしそうに食べてたで、わいが買って帰ると鹿さんようけついてきはった。よっぽど美味しいんやと思うわ。」

(源兵衛)「まぁ、ええわ。しかしなぁ、酒を飲みすぎると眠たくなるからなぁ。こんだけ酒肴がそろっているのに、飲みすぎるなというのもつらいもんがありまんなぁ。」

(ご隠居)「前は誰かが胡椒をたくさん撒きよったで、くっしゃみは出るし、涙は止まらんし、確かに眠くはならんかったけどこりごりやったなぁ。」

(源兵衛)「東西屋の新さんに一晩中チンドンチンドンやってもらったこともあったなぁ。」

( 清八 )「あったあった、新さんイチビッていつもよりよけいにチンドンチンドンやりよった。」

(源兵衛)「あのあと、二三日の間、頭の中でチンドンチンドン鳴って往生したがな。」

(ご隠居)「そうやったなぁ、そしたら今日は皆で順番に話をしようか。」

( 清八 )「あかんあかん、話は前もやったがな。みんな贔屓があるていうて相撲の話をしたら、きーやんと源ちゃんが力入りすぎて、ほんまに立ち上がって相撲を取りだした。障子を蹴破ってあとでえらい怒られたがな。」

(源兵衛)「そやそや、そのあと色事の話をしようとしたら、誰一人として女にもてたことなくて白けたなぁ。」

(ご隠居)「話をするのはあかんか、そしたらみんなで数を読むというのはどうや。誰でもできるし、興奮して暴れることもないし。」

(源兵衛)「数よむって、どうすんのや。」

(ご隠居)「簡単や、たとえばそのお皿に煮豆がようけ盛ってあるやろ。喜ぃやん、ちょっと数えてみ。誰でも出来るやろ。」

( 喜六 )「そら、誰でも出来るけど、おもろいか?」

(ご隠居)「おもろのうても、眠なきゃ良いんやから、喜ぃやん、ちょっとやってみて。」

( 喜六 )「そうかなぁ、そしたらこの煮豆をこうもろて。 煮豆が一個と(食べる)、煮豆が二個と(食べる)、煮豆が三個と(食べる)、煮豆が四個と(食べる)、煮豆が五個と(食べる)、・・・。」

(源兵衛)「おいおい、煮豆はよおけあるから食べてもエエけど、そんなに食べると胸焼けるでぇ。次はワイがやってみるは。ワイの好物はこの奈良漬けや。 きゅうりの奈良漬、うまそうやな。奈良漬けが一切れ(食べる)、奈良漬けが二切れ(食べる)、奈良漬けが三切れ(食べる)、奈良漬けが四切れ(食べる)、 奈良漬けが五切れ(食べる)、・・・やっぱり春鹿の酒粕で漬け込んだ奈良漬けはうまいなぁ。・・・奈良漬けが六切れ(食べる)、奈良漬けが七切れ(食べる)、 奈良漬けが八切れ(食べる)、奈良漬けが九切れ(食べる)、・・・」

( 清八 )「みんなうまそうに食べよるなぁ。次はワイや、玉子の巻焼きでいくわ、玉子の巻焼きが一個と(食べる)、玉子の巻焼きが二個と(食べる)、 玉子の巻焼きが三個と(食べる)、・・・」

(ご隠居)「おいおい、玉子の巻焼きは数少ないからあかんがな。こっちのコウコ、色も形も卵焼きに似ているから、卵焼きと思って食べたらどうや。」

( 清八 )「この沢庵かいな。こんなの玉子の巻焼きと思って食べられるかいなぁ。 玉子の巻焼きが四個と(食べる)ポリポリ、玉子の巻焼きが五個と(食べる)ポリポリ、玉子の巻焼きが六個と(食べる)ポリポリ、・・・」

(ご隠居)「アカンアカン、卵焼き食べるのになんでポリポリと音をさせんね。静かに食べぇな。」

( 清八 )「音させたらあかんの?玉子の巻焼きが七個と(食べる)・・・ロレロレムニャムニャ・・・」

(ご隠居)「飲み込み!」

( 清八 )「うっ。・・・う~ん。・・・ゴホゴホ。・・・アァ死ぬかと思った。みんな、沢庵の卵焼きを食べるときは命がけやで。」

(ご隠居)「そんなんするのは清やんだけやがな。あんまり食べすぎるとまた眠うなるで。食べんとやれんかぇ。」

( 清八 )「そしたら、気を取り直して、次はお皿を数えるは、皿が1ま~い、皿が2ま~い、皿が3ま~い、皿が4ま~い、皿が5ま~い、皿が6ま~い、皿が7ま~い、 皿が8ま~い、」

( 喜六 )「清やん、変な声だしないなぁ。皿屋敷のお菊さんみたいで怖いがな。」

( 清八 )「さぁ、それや。まるでお菊さんが井戸から出てきたように思えたやろ。怖い怖い思うたら眠られへん、腹もふくれへんし。」

( 喜六 )「怖いのはやめてぇな。眠られへんけどおしっこも行かれへん。」

(源兵衛)「喜ぃやん、こんなん怖いんか。そしたらわいは幽霊を数えたろ。 ヒュ~ドロドロ、お岩さんが一人、ヒュ~ドロドロ、お岩さんが二人、ヒュ~ドロドロ、お岩さんが三人、ヒュ~ドロドロ、お岩さんが四人、ヒュ~ドロドロ、お岩さんが五人、」

( 喜六 )「あ~、あかんあかん、お菊さん一人でもこわいゆうてんのに、お岩さんようけだしてどうすんね。わいの一生のお願いや、怖いから堪忍して。怖い怖い、 もう、そこの土間の隅でおしっこしょ。」

時うどん

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(ご隠居)「そんなとこでおしっこされたらかなわんがな。喜ぃさん、怖くないのを数えたげるから、安心しぃ。お金を数えるのは怖くないやる。 一文、二文、三文、四文、五文、六文、今、何時でぇ? 七つです。八、九、十、・・・、」

( 清八 )「何ですか?」

(ご隠居)「このあいだ、寄席へ行ったら、噺家がこんな噺をやりよった。時うどんって噺や。おもろかったからちょっと真似した。」

( 清八 )「次ぎは、何をかぞえよかなぁ。庚申さんやから猿でやろうかナァ。猿が一匹、猿が二匹、猿が三匹、猿が4匹、・・・」

(源兵衛)「そしたら、わいは干支でやるは。わいの干支は子やさかい。ネズミが一匹、ネズミが二匹、ネズミが三匹、ネズミが四匹、ネズミが五匹、ネズミが六匹、 ネズミが七匹、ネズミが八匹、・・・。」

( 喜六 )「これなら怖いことないからワイもできる、わいも干支でやるは。わいの干支は未やさかい、ヒツジでやるわな。ヒツジが一匹、ヒツジが二匹、ヒツジが三匹、 ヒツジが四匹、ヒツジが五匹、ヒツジが六匹、ヒツジが七匹、ヒツジが八匹、・・・。グゥ~」ヒツジを数えて寝てしまった。


お後が宜しいようで。

今年も「大和の土鈴」ホームページへのご訪問、ありがとうございました。来年も宜しくお願いいたします。

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